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Artists
- 2022 Drawing-Growing
プロデューサー: オ・ミンス
テクニシャン: オルミディオ
グラフィックデザイン: パイカ
日本語の翻訳: 紺野優希
英語の翻訳: イ・ギョンタク
主催. 美學館
後援. 韓國文化藝術委員會, 公益財団法人 熊谷正寿文化財団
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スクリーニング & アーティストトーク <完璧なドーナツをつくる >(2017-2018)
Feb 18 (Sun), 2024 2 pm
PLACE MAK 3 (B1, 96 Hongyeon-gil, Seodaemun-gu, Seoul)
氷点下の「タイパ」
タイトルの『いま、すべての生き物が呼吸している』は、同名のインスタレーションのタイトルから取ったものだ。この作品は、昨年10月から12月にかけて黒部市美術館で開催されたキュンチョメの個展『魂の色は青』の出展作の一つとして、美術館近くのヨシ原に設置された。観客は、展示室内のガラス越しに、青地の木製パネルの上にタイトルと同様のテキストが書かれた作品を見る。あるインタビューでキュンチョメは、『魂の色は青』が「タイパがとても悪い展示」と紹介している。「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略で、費やした時間に対して得られた実績や効果の割合を指す新語である。東京から3〜4時間ほどかかる黒部市美術館で、キュンチョメは観客の「タイパ」が悪くなることを願った。会場には、キュンチョメの二人が南国のハワイとフィリピンの海の近くで滞在制作したときの作品が並べられている。海中で一人(ホンマエリ)が祈るときの体勢で沈んでゆく映像、沈むときに発生した泡を撮った写真、陽に当たって温かくなった石を臍にハメて温もりを感じる姿を描いたドローイング、ドローイングの画像をプリントしたTシャツを涼しいところで干したインスタレーション、先に紹介した看板型のインスタレーションなどがある。また会場の外では、アイスクリームにまつわる自分の記憶を書いて渡すとアイスクリームに交換してもらえたり、美術館から歩いて40分くらいかかるカフェではキュンチョメが世界各地から集めたコーヒー豆で作ったコーヒーが飲めたり、アーティストオススメの海に足を運ぶことができる。このように、ささやかなイベントを体験しながら、観客は展示の内と外でルーズに時間を過ごすことができる。今後はもっと「他人の想像力を信じたい」と語るキュンチョメの姿勢は、想像力を押さえつける案内文などもできるだけ減らしたいという発言とも軌を一にする。制作を「新しい祈り」として捉えるキュンチョメの芸術実践は、黒部という郊外を「タイパ悪く」楽しんでもらいたい気持ちとして展示に表現されている。今回ソウルで開催される個展『いま、すべての生き物が呼吸している』は、その祈りの続きである。だが本展は、真逆の環境を条件とする。海が近いハワイ・フィリピンと黒部は、ダイビングもできない凍った川を前にした場所に変わる。水面に浮かぶ泡ではなく、息が白く変わる極寒の中、展示は開かれる。『魂の色は青』で発表したような、政治的なテーマに愉快かつ深く切り込んだこれまでの芸術実践とは異なり、本展は長閑で瞑想的な色合いが強い。だからといって、ただのんびりと悠々自適に過ごしたロマンスを描いたわけではない。氷点下まで気温が下がるソウル、小さなスペースの内と外で「新しい祈り」を見聞きする私たちは、思う存分に「タイパが悪い」時間を過ごすことになるだろう。
2023 年4 月24 日、一日中寝転がって海を見ていた。砂浜の石を手に取ると、丸くてスベスベしていて、心地よい感じがした。その石を拾って、なんとなくヘソにはめてみたら、ぴったりと私のヘソにはまった。一日中太陽で温められた石の暖かさが、ヘソから私に伝わってきて、不思議な気分になった。息をゆっくり吸って吐くと、ヘソにはまった石が少しずつ私の身体に馴染んで、なんだかこの世界とちょっと特別な関係を結べたような気持ちがした。
祈りながら、何度も海に沈みました。海に沈みながら、願いや祈りの言葉を何度も唱えました。声は泡になって、水面へと上昇し、祈りは海に溶けていきます。
Text by Moon-seok Yi
アーティストについて
キュンチョメは、2009年からホンマエリとナブチで活動しているアートユニットである。日々直面する性差別・自然然災害・国家機関による監視や情報格差といった社会問題を批判的に見つめ、メディウムとジャンルに囚われない手法でユーモラスかつ詩的に表現してきた。たとえば、<避難指示区域にタイムカプセルを埋めに行く>(2011)や<空蝉Crush!>(2017)にも見て取れるように、東日本大震災はキュンチョメの活動の重要な出発点となっている。彼らにとって震災は、震災後に露呈した日本の国家権力の無能さと社会的トラウマにいかに抵抗し、記憶できるかを改めて考える起点となった。また、日本における社会的マイノリティの人たちと交流しながら、今日に欠けているものを問いかけ、それがいかにして満たされるかにも目を向けてきた。米軍基地建設をめぐって、沖縄県民をはじめとした利害関係者の立場を2種類のドーナツから浮かび上がらせた<完璧なドーナツをつくる>(2017-2018)、生物学的性と社会的性のズレから性別の違和感を覚えるトランスジェンダーの当事者が、新しいを名前を自分につけて腹の底から叫ぶ(=呼ぶ)<声枯れるまで>(2019)、墨で昔の自分の名前を書き、その上に赤い墨で新しい名前を書く<私は世治>(2019)は、社会的・性的マイノリティの人々との交流から生まれたものを収めた作品だ。キュンチョメによる芸術実践は、特定のジャンルやメディウムに縛られていない。だが作品には共通して人間の仕草、なかでも食事や大声を出すといった原始的で日常的な行為がモチーフとして——そして、テーマとして扱われている。震災のときに電波が繋がらなくなった経験が制作に繋がった<遠い世界を呼んでいるようだ>(2013)では、離れて暮らす人同士でオオカミの鳴き真似をしてコミュニケーション試みている。また<洗濯物美術館>(2022-2023)では、作品画像をプリントしたTシャツを洗って、天気のいい日に干すことで展示会を一時的に開く。これらの作品でキュンチョメは、人間の仕草や行為の結果を積極的に取り込んでいる。自分たちの芸術実践は、一人山で修行しながら街の人々の話を聞く僧侶の生活に似ているとキュンチョメは語る。彼らの作品は、社会に生きるマイノリティを記録し、彼らと関わり、行為の結果を愉快でかつ隠喩的に表現している。これまで個展『魂の色は青』(2023、黒部市美術館、富山)、『もう一度 太陽の下でうまれたい』(岡本太郎記念館、東京)を開き、『六本木クロッシング2022:往来オーライ!』(森美術館、東京)などのグループ展に参加した。第17回岡本太郎現代芸術賞。
@kyunchome
Photo : Seungwook Yang