氷点下の「タイパ」
タイトルの『いま、すべての生き物が呼吸している』は、同名のインスタレーションのタイトルから取ったものだ。この作品は、昨年10月から12月にかけて黒部市美術館で開催されたキュンチョメの個展『魂の色は青』の出展作の一つとして、美術館近くのヨシ原に設置された。観客は、展示室内のガラス越しに、青地の木製パネルの上にタイトルと同様のテキストが書かれた作品を見る。あるインタビューでキュンチョメは、『魂の色は青』が「タイパがとても悪い展示」と紹介している。「タイパ」とは「タイムパフォーマンス」の略で、費やした時間に対して得られた実績や効果の割合を指す新語である。東京から3〜4時間ほどかかる黒部市美術館で、キュンチョメは観客の「タイパ」が悪くなることを願った。会場には、キュンチョメの二人が南国のハワイとフィリピンの海の近くで滞在制作したときの作品が並べられている。海中で一人(ホンマエリ)が祈るときの体勢で沈んでゆく映像、沈むときに発生した泡を撮った写真、陽に当たって温かくなった石を臍にハメて温もりを感じる姿を描いたドローイング、ドローイングの画像をプリントしたTシャツを涼しいところで干したインスタレーション、先に紹介した看板型のインスタレーションなどがある。また会場の外では、アイスクリームにまつわる自分の記憶を書いて渡すとアイスクリームに交換してもらえたり、美術館から歩いて40分くらいかかるカフェではキュンチョメが世界各地から集めたコーヒー豆で作ったコーヒーが飲めたり、アーティストオススメの海に足を運ぶことができる。このように、ささやかなイベントを体験しながら、観客は展示の内と外でルーズに時間を過ごすことができる。今後はもっと「他人の想像力を信じたい」と語るキュンチョメの姿勢は、想像力を押さえつける案内文などもできるだけ減らしたいという発言とも軌を一にする。制作を「新しい祈り」として捉えるキュンチョメの芸術実践は、黒部という郊外を「タイパ悪く」楽しんでもらいたい気持ちとして展示に表現されている。今回ソウルで開催される個展『いま、すべての生き物が呼吸している』は、その祈りの続きである。だが本展は、真逆の環境を条件とする。海が近いハワイ・フィリピンと黒部は、ダイビングもできない凍った川を前にした場所に変わる。水面に浮かぶ泡ではなく、息が白く変わる極寒の中、展示は開かれる。『魂の色は青』で発表したような、政治的なテーマに愉快かつ深く切り込んだこれまでの芸術実践とは異なり、本展は長閑で瞑想的な色合いが強い。だからといって、ただのんびりと悠々自適に過ごしたロマンスを描いたわけではない。氷点下まで気温が下がるソウル、小さなスペースの内と外で「新しい祈り」を見聞きする私たちは、思う存分に「タイパが悪い」時間を過ごすことになるだろう。
2023 年4 月24 日、一日中寝転がって海を見ていた。砂浜の石を手に取ると、丸くてスベスベしていて、心地よい感じがした。その石を拾って、なんとなくヘソにはめてみたら、ぴったりと私のヘソにはまった。一日中太陽で温められた石の暖かさが、ヘソから私に伝わってきて、不思議な気分になった。息をゆっくり吸って吐くと、ヘソにはまった石が少しずつ私の身体に馴染んで、なんだかこの世界とちょっと特別な関係を結べたような気持ちがした。
祈りながら、何度も海に沈みました。海に沈みながら、願いや祈りの言葉を何度も唱えました。声は泡になって、水面へと上昇し、祈りは海に溶けていきます。
Text by Moon-seok Yi